タイトルにある「仁丹」「天丼」は、終戦後に多くの有名無名の芸人によって演じられてきたコントのタイトル。これに「レストラン殺人事件」を加えて「3大コント」と呼ばれたりしました。
仁丹も天丼も、そっけないタイトルからは内容の見当もつかないのでは(最近良く聞く、ギャグ用語としての「てんどん」とは無関係)。要するに、芸人同士の符丁のようなもので、当時の観客にもこの呼び名、全然知れていませんでした。
肝心の内容ですが、はっきり言ってストーリー自体は、どうってことありません。面白いコントが量産されている今の目で見ると、かなりがっかりするんじゃないでしょうか?
にもかかわらず、ここで取り上げたのは、コントの歴史の中で欠かせないくらい重要な役割を果たしてきたからなんです。カッコ良く言えば、当時一匹狼だった芸人同士を結ぶ絆のようなものでしょうか。
戦前はエノケンやロッパのような座長のもとに集まった劇団員がコントを演じてましたが、前編に記したように、戦後のコントはストリップの幕間が主戦場。集められた芸人も、古くからの仲間ばかりとはいかず、組んだ事のない相手といきなりコントを始めることも日常茶飯事でした。
そんな時でも「今日は『仁丹』やろう」となれば、リハーサルもいらず、スタッフもすぐに小道具を用意でき、すぐに本番となる。舞台にかかわっている人間は誰もがコントの内容を知っているからこそできる驚異的な早業です。
ただし、いざ始まってしまえば、そこは演者同士の真剣勝負。冒頭の設定だけは踏まえるものの、その後はストーリーも結末もあってないようなもの。どれだけ自分の芸で、場内の客を笑わせるかという、芸人のプライドを賭けた戦いが繰り広げられてきました。
もちろん、当時の芸人のレベルにもピンからキリまであったものの、芸が詰まらなく評判の悪い芸人がフェイドアウトしていくのは、いつの時代も同じこと。舞台の上で生き残るには、死に物狂いで笑いを取らなければならなかったのです。
やがて、こうした舞台コントの全盛時代に転機が訪れます。全国の家庭にテレビジョンが普及し始めたことが、直接のきっかけでした。
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