広川峯啓の“笑いま専科”

広川峯啓の“笑いま専科”

2011年02月

2月 28日

80年代、お笑いは「文化」になりかけた(中編)

1980年代にもっとも影響力を持ったコントユニット。シティボーイズでもコント赤信号でもありません(もちん、どちらも大好きなグループですが)。それは間違いなくスネークマンショーです。

もともとは、75年にラジオ番組「スネークマンショー」としてスタート。DJを担当した小林克也と音楽プロデューサー桑原茂一によって形作られ、76年に俳優の伊武雅刀が加入。音楽番組内のブリッジ的役割として、さまざまなスケッチ(コント)をオンエアしてきました。

ブレイクのきっかけは、80年にリリースされたイエロー・マジック・オーケストラ4作目のアルバム「増殖」に、ユニットで参加したことでした。YMOの楽曲の間で演じた「ここは警察じゃないよ」「若い山彦」といったコントがセンセーショナルを巻き起こし、「スネークマンとは何物なんだ?」と、感性の鋭い音楽ファンを引き付けました。

翌81年には、ユニットとしてのアルバム「スネークマンショー(急いで口で吸え!)」をリリース。人気を不動のものにします。とはいえ、当時テレビ出演等は極力控えられました。キャラクターの声とSE(効果音)、そしてコントとコントを繋ぐ最先端の音楽(この時点で既に主客転倒)に耳をこらしながら、リスナーは想像力を膨らませていたのです。

スネークマンショーの魅力については、WEBにしても紙資料にしても、詳しく記された文献が膨大に存在しているので、ぜひそちらを参照してみてください。ただ一言で表わすとすれば「過激にして愛嬌あり」といったトコでしょう(ちなみにこの言葉、明治時代に創刊された歴史的雑誌「滑稽新聞」のキャッチコピーなんですが)。

スネークマンショーが話題になっていたほぼ同時期、こちらも日本中を巻き込んだ「マンザイブーム」がありました。この2つは「新しい笑い」を生み出したという点では共通していましたが、同時に大きな違いも見られました。

その違いとは……。というところで今回はここまで(笑)。次回こそ必ず完結させますので、乞うご期待。
2月 27日

80年代、お笑いは「アート」になりかけた(前編)

つい、先日まで「日本コント史」という大河コラムを書かせてもらってましたが、マンザイブームが巻き起こる1980年直前のところで、めでたく中断させていただきました(笑)。

いろいろ事情もあったんですが、この時期からお笑いの状況が劇的変化を遂げた事も、理由の一つでした。コント自体も、それまで演芸場で披露されてきたものとは一線を画し、さまざまな要素を盛り込むことで、新しい笑いを生み出してきました。

一方、様々な芸術ジャンルが変容を遂げたのも、80年代だったといえます。もちろんそれ以前にも、文化芸術は時代とともに“進化”を見せてきましたが、この時代は“乱世の風”が吹き荒れました。

その一つに“パフォーマンス”と呼ばれる新たなジャンルが、確立したことがあります。60年代に“ハプニング”と呼ばれる芸術が発生し、その後も細々と続いていたものの、外圧を受けて名称も変更し(笑)、突如芸術ジャンルの最前線に降り立ったのでした。

ほとんど黒船上陸状態のムーブメントは、日本の芸術業界(?)全体にちょっとした混乱を巻き起こします。その結果、芸術とそうでないものの垣根に、多少の緩みが生じたのでした。

時期を同じくして、お笑いの世界も変革の時を迎え、従来のセオリーから大きく逸脱した笑いが、日本中を席巻していました。当時、文化の担い手と考えられていた新し者好きの中には、「この新しい笑いの中に、芸術と呼べるものが紛れてるんじゃないか?」と考える者も少なくありませんでした。

確かに、そう考えてもおかしくないというか、従来のどのジャンルにおいても、何となく納まりの悪いユニットが、当時絶大な人気を集めたことは事実です。

お笑いの世界を一時的にボーダレス化するほどの影響力を持ち、アートの世界にまで侵食する勢いを見せたユニットとは……。思わせぶりなことを書いて、後編も読んでもらおうとするのが、筆者の悪いクセです(笑)。
2月 25日

人気沸騰の中、世にも「あらびき」なDVDを見た!!

「あらびき団」ファンにとっては、2年ぶりのお待ちかね。最新DVD『あらびき団 第2回本公演~ミュージックパワー~』が2月23日にリリースされました。キャッチコピーは今回も「テレビでは見られない」。

「番組は毎週見てるけど、DVDはどうしようかな?」と迷ってる方の背中を押すのが、このコラムのテーマです(笑)。ハッキリ言って、これオススメですよ。TVオンエアよりも5割増しでクオリティ高いのでは。

前述のコピーは、ちょっと違うと思うんですよ。正しくは「テレビでは作れない」では。基本的にスタイルは一緒なんだけど、長時間というだけじゃなく、全般的に手間ひま掛けてる感じです。

もちろん、そこは「あらびき団」だけに、手間ひま掛けた意味がよく分からないネタも少なくないんですが(笑)。それも、番組の魅力の一つなんで……。

今回はサブタイトルからも分かるように、歌ネタ、音楽ネタが中心。DVDで歌ネタやるってことで、一抹の不安を感じてしまったんですが、その不安は後半で見事に適中します(笑)。でも、こちらも見どころの一つなんでしょうね。

収録芸人はあかつ、AMEMIYA、チーモンチョーチュウ、天竺鼠、風船太郎ほか、総勢20組超。目玉商品はやっぱり、今が旬の楽しんご。若い女性にも人気なのが、若くない男性の筆者には?ですが、デビュー当時よりもずっとキレが出てきたのは確かでしょう。

あと、個人的に推薦したいのが、ガリガリガリクソンwith桜 稲垣早希の異色ユニット。見た目は邪道そのものですが、意外にもまっとうな漫才を見せてくれます。こういうチャンとしたものをTVでやったら、却ってガリクソンのイメージダウンになりそうなんで、やっぱりDVDならではでしょう。

ライト東野、レフト藤井の両MCもTV以上の切れ味鋭いコメントで、あらびき芸人をぶった切ってくれます。2人とも口にしてましたが、「お金を払って見てくれてる人」のことを、人一倍意識してくれてるようで、感心してしまいます。

ただ、改めて思ったのが、この2人って「ほかの芸人がスベル」のが大好きですよね。一般人にとってはそうでもない。というか、笑えないからすべってるじゃないかと…。

最後に一つだけ、DVDを見ないと分からない情報を、1つリークしましょう。本編のどこかで「2010年12月1日収録です」というテロップが入るんです。なぜ、これが必要だったのか? さすがにそこまでは……。ぜひとも、その目で確かめてください。
2月 23日

人気沸騰の中、世にも「あらびき」なライブを見た!!

芸人が持ちネタを見せるバラエティが次々に終了する昨今、“邪道”と開き直ってスタートしたにもかかわらず、堂々生き残りを果たしたのが、ご存知「あらびき団」(TBS系)です。ライト東野(東野幸治)、レフト藤井(藤井隆)のMCによる、絶妙なあらびき芸人さばきは、ネタ以上の見どころになってます。

このたび、最新DVD『あらびき団 第2回本公演~ミュージックパワー~』がリリースされ、記念イベントが池袋サンシャインシティ噴水広場で2月23日に開催されました。人気絶頂の楽しんご、キュートンが出演するうえに、両MCまで駆けつけるとあって、平日夕方にもかかわらず会場はまさに黒山の人だかり!!

でもイベントのテーマは、なぜか「ギネスに挑戦」。オープニングアクトのキュートンこそ、お馴染みの持ちネタを披露したものの、続くくしゃみ屋は「1分間にバランスボールの上で20回の屈伸」に挑戦。心配そうな満場の観客の予感はみごと的中。インチキしながらも3回がやっと。とはいえ、番組で見せる彼らの技はすべり芸(本当の意味で)だけに、ある意味本領発揮でした。

続いては、こちらも常連の渡辺ラオウ。何でも今回のDVDには出演してないそうですが、それでも「3分の間に鼻で風船を23個膨らませる」技に挑戦。なんでも「家でやったときは楽勝」だったそうですが、数千人に見守られて緊張したせいか、惜しいところで記録達成ならず。テレビでは見せない申し訳なさそうな表情が印象的でした。

次に登場したのは、番組初期からの功労者・風船太郎。「風船に入って、縄跳びを30回跳ぶ」という荒業に挑戦、見事クリアしたものの、もともとギネス世界記録に認定されていない種目だったオチは、まさにあらびきテイスト。ただ、いちばん手に汗握るスリリングな展開だったことは間違いないです。

そしてトリを取ったのが楽しんご。人気があるとは聞いていたものの、あれだけ若い女性からキャーキャー言われる存在になってたとは、オドロキです。彼が挑戦したのは「1分間にキスされた回数」。見事これまでの記録118回を上回る125回をマークして、世界記録を達成。満場割れんばかりの拍手で、理想的なフィナーレを迎えました。

最後まで失敗し続けた方が「あらびき団」ぽかったんじゃないかと、へそ曲がりな考えも一瞬脳裏をかすめましたが、やっぱりお客さんが盛り上がってエンディングを迎えるのが、ライブの醍醐味ですから。ぐだぐだな内容(もちろん良い意味で)はDVDで存分に味わえますし。という訳で、次回はDVDの魅力を、いいトコ取りでレビューしちゃいます。
2月 16日

笑いの反芻(はんすう)「『井戸のお化け』とは何だったのか?」

漫才やコントのネタを見たり、爆笑トークを聞いたりした時、大きな笑いに隠れて、ついついスルーしてしまいがちになる笑いというものが、結構あります。もちろんそれも、演者、語り手が練りに練って盛り込んだものです(たまに無意識の場合もありますが…)。

そういった、観客や視聴者が消化し切れなかった「笑いの塊」をもう一度胃袋に戻して、じっくり反芻してみようというのが、このコラムの企画意図です。まず取り上げてみたいのは、先日の「R-1ぐらんぷり」で優勝した佐久間一行が見せた、独創的ながらも幅広い層に受け入れられたネタ「井戸のお化け」について。

「♪井戸の中からじゃなくて  井戸自体がオレっさ」というフレーズが全てを表わす、呆れるくらいに明るいミュージカルナンバー。
8人中8番目の登場順だったにもかかわらず、他の出演者とも一切ネタがかぶらなかった斬新さが、観客にも審査員にも大好評でした。

4分弱の間、つねに観客の予想を裏切る展開を続け、ただただ笑っているうちにエンディングを迎えるというシンプルながらも不思議なネタ。見終わっていちばん不思議に思うのが「なぜ『井戸のお化け』なんだろう?」ということでは。

古くは「番町皿屋敷」のお菊さんから、最近では「リング」の貞子まで、井戸から出てくる幽霊は数々ありました。でも、井戸からお化けが出てくるという例は意外とないんですね。

ただ、「イドの怪物」というものなら、一部ではかなり有名な存在だったりします。もともとは1956年に公開されたSF映画「禁断の惑星」に登場した怪物で、人間の潜在意識、自我(イド)そのものが怪物化して人間を襲うというストーリーです。

当時、子供向け中心だったハリウッドSFの中にあって、心理学的なテーマを扱い、全世界のSFファンを夢中にさせました。日本でも筒井康隆、手塚治虫らが、このテーマを作品に織り込んできました。

佐久間一行がSF好きかどうかは判りませんが、「イド自体がオレっさ」っていうのは、まさにオリジナルのテーマと合致してます。そういった観点から、あのコントを見直すと、また新たな魅力を発見することができるんじゃないでしょうか。
プロフィール

hirokawa takaaki

「週刊テレビガイド」「TV Bros.」等の編集者として、客観的な目で見ることのできる立場からテレビと接する。 平成10年 フリーのライターとして独立。依然としてテレビ関係の記事、コラムを中心に活動。数年がかりの仕事として、日本テレビ50年史(非売品)の記事、コラムを共同執筆する。ミーハーさとマニアックさを合わせ持った目線で、ありとあらゆるバラエティを紹介していきます。

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