70年代後半、漫才ブームが到来する少し前の時代。お笑い、バラエティの世界は、今の眼で見ると不思議な停滞感に包まれていました。しかし、同時代に生きていた観客にとっては気がつきにくいことだったのかもしれません。

流行りの言葉でいうと「ゆるい笑い」ですね。これがゴールデンタイムの人気番組中に満ちあふれていたんです。まだまだ、お茶の間で家族だんらんが存在していたこの時期、ちびっ子からおじいちゃん、おばあちゃんまで一緒に見られる番組が、バラエティとして高評価を得ていました。

一方、視聴率は高くてもワースト、俗悪番組と称されるものもありましたが「食べ物を粗末にしている」とか「暴力やエッチなシーンが多い」といった、ある意味、非常に判りやすいもの。つまり、誰もが番組の内容を十分理解して、その上でクレームを付けていたんです。

制作する側の姿勢も、現在のバラエティの作り方と180度違っていました。誰が見ても判りやすく楽しめることが、第一の条件であり、マニアックでとんがった笑いは、却って避けられる傾向があったようです。

まるで、60年代にひたすら笑いのクオリティを追及してきたバラエティの世界に、息切れが生じたかのようです。でもぶっちゃけてしまえば、人気者さえ出しておけば、それほど苦労しなくても視聴率が取れるという時期だったんだと思います。

クオリティの高い笑いを生み出すには、常に創造の苦しみがつきまとうもの。しかし、クオリティよりも楽しさを伝える番組作りであれば、これまで蓄積してきた技術とノウハウで、容易に再生産することが可能になってきます。

小林信彦が名著「テレビの黄金時代」の中で描いたのは、70年前半までのバラエティ作りの現場でした。それ以降、放送作家の仕事を離れたこともあって、他の著作でも多くは語られていませんが、この時期に黄金時代が終焉したことは、誰もが認めるところでしょう。

このように表面的には停滞していた70年代後半のバラエティでしたが、その水面下では新しい笑いを生み出すエネルギーが沸々と燃えたぎっていたのも、また事実でした。(次回でフィナーレを迎えるか!?)