75年にスタートした『欽ちゃんのドンとやってみよう!』(フジ)は、たちまち裏番組の『8時だョ!全員集合』(TBS)の牙城を脅かすまでに
人気を獲得。日本中に萩本欽一の復活をアピールしました。

番組成功の理由は、当時も各マスコミで取りざたされました。プロの作り込んだ笑いで高視聴率を獲得し続けてきた「全員集合」が飽きられ、萩本欽一がアドリブを使ったツッコミで、素人たちの自然な笑いを引き出したからというのが主流の意見でした。

それに加え、前川清と組んだコント54号も高評価でした。笑いについては素人の前川による、今で言う「天然ボケ」が、マスコミ的には新しい笑いに見えたようです。

しかし、実際にそうだったんでしょうか? 素人が戸惑ったり、台詞をトチったりする様子は、それまでの他の番組でも見られたし、特にユーモラスなCMの手法としては定番でした。前川清については、天然と言うよりも、ある種の芸人が持つ「フラ」という要素があったんだと思います。

当時楽しみに見ていた一視聴者としての意見で恐縮ですが、番組の中でいちばん人気があっていたのは、「母と子の会話」のコーナーだったと記憶してます。欽ちゃんが人気タレントやアイドルとともに、観客の前で投稿されたコントを演じる、ライブ形式の枠です。長く続いた『欽ドン』シリーズの中でも、スタイルを変えながら綿々と続けられてきました。

コントは全て一問一答形式(つまり、フリとオチ)。常に子供役のゲストが、母親役の欽ちゃんに話しかけ、それに対して答えるというもの。ゲスト側には自分の喋る台詞しか知らされず、欽ちゃんの喋るオチの台詞を聞いて大爆笑したり、イマイチ理解できないといった表情になるのが、肝心のコント以上に面白かったのでした。

ゲストは芸人ではないものの、台詞を語るのはお手のものという人ばかり。つまり素人の生み出す面白さとは、別物だったといっても良いでしょう。では、なぜマスコミの評価と世間の評判にズレが生じてしまったんでしょうか?