「スネークマンショー」のブレイクと、「マンザイブーム」の最盛期は、ほぼ同時期といえます。新しい笑いを一般的に広めたという点では共通する両者ですが、そこには決定的な違いがありました。

スネークマンショーが生み出す笑いは、従来のお笑い好きな層に加えて、日ごろから流行に敏感でセンスを磨いていた若者のアンテナに引っかりました。単に面白いだけでなく、アート性、ファッション性、カッコ良さを感じたんですね。少なくても日本のお笑い業界においては、前人未到の出来事でした。

こうした影響は周辺にも広がりました。まずアルバムでコラボレーションしたYMOが、バラエティに出演するだけでなく、コントや漫才にまで挑戦しました。さらにその影響で、アーティストはみだりにテレビに出るものじゃないという、当時の常識をあっさり打ち破ったことで、人気ミュージシャンが「俺たちひょうきん族」などのお笑い番組に出演するという現象が生まれました。

YMOの坂本龍一も参加している映画「戦場のメリークリスマス」に、重要な役柄でビートたけしが出演したことも、結果的にはお笑いの地位を高めることとなったのでは。この勢いが続けば、お笑いの文化的地位は欧米並みに高くなっていたかもしれません。

そうならなかった理由はいくつか考えられますが、期せずしてスネークマンショーの後ろ盾的存在となっていたYMOが、83年に“散開”してしまったたことも一因だったように思います。この機に乗じて、音楽業界は保守回帰を図り、“高尚なお笑い”は次第にメインストリームから脇へと追いやられていきました。

ただ、現在の状況を見ると、それは必ずしもマイナスではなかったように思います。漫才にしろ、コントにしろ、バラエティ番組にしろ、雑多なものが共存共栄しているからこそ、多くの人が自分の気に入ったものを選択できるのですから。

それに、本当にいいものは、例え忘れ去られたとしても、形を変えてまた我々の前に現れるはずです。例えば、いま人気絶頂のスリムクラブって、どこかスネークマンショーに似てると思いませんか?