このタイトルを決めた時には、一回に付き一名を簡単に紹介していこうと考えてたんですが……。いざ書き始めると、あれも書いとこう、ここにも触れておこうとするうちに、前中後の3部作になってしまいました。

次からのボードビリアンについては、なるべくコンパクトに納めるつもりです。と、言い訳したところで本題に。

テレビ時代が到来したことで、持ち前の毒舌を封印されてしまったトニー谷は、1960年代初頭まで映画、舞台の脇役を活動の中心にします。それでも、唯一無二の個性の持ち主だけに、出番は少なくても強烈な存在感を示していました。

そのままフェイドアウトしてしまえば、昨今の一発屋と変わりませんが、ある番組を機に人気を取り戻します。それが日本テレビ系で放送された『アベック歌合戦』でした。

もともとの持ち芸だったソロバンの代わりに、パーカッションの拍子木を手に、決めセリフ「あなたのお名前なんてえの?」と質問。出演者は「~と申します」と返すのがパターン。この軽妙なやり取りが全国的な人気を集めました。

もちろん、アベックの出演者に多少馴れ馴れしい物言いはしても、毒舌をあびせることはありません。つまり、ここにきてようやく、トニー谷はテレビで許容されるスタンスを発見したのかもしれません。

多芸多才だったトニー谷だからこそ、得意技の一つが封印されても、何とか復活を遂げることができたんでしょう。番組は何度かリニューアルを重ねた後に終了しましたが、それ以降は芸能界の一線を退き、ハワイに居を構えて余生を過ごし、時おり日本に戻って芸能活動を行いました。

つまり、大橋巨泉が広めたと言われる“ハーフリタイア”をいち早く実践していたのがトニー谷なんです。芸だけでなく、生き方までも独自性を発揮し続けた伝説のボードビリアンでした。